痴呆高齢者行為動作分析から生まれる介助法

伊藤美知
(有)イトーファーマシー デイハウス沙羅 

 人の行為動作には人それぞれに行為動作の順序があります。今回は、行為動作を分解、分析することで、痴呆高齢者に合った介助法を見出し実践している報告を行います。

行為動作は、複雑な思考の上に成り立っています。たとえば、言葉の理解がなければ、行為動作に移れません。さらには、たとえ行為動作をはじめようとしても言葉と行為が一致しなければ行為動作を続けていくことは難しく、途中で中止しなければならなくなります。痴呆性高齢者のように認知障害のある人々は、ひとつの行為動作を行うにも、一つ一つの言葉と行為と実行をつなぎ合わせることが難しいようです。


風呂に入ろう→脱衣室移動→脱衣→浴室移動→かけ湯→入湯→
出湯→洗身・すすぎ→洗髪・すすぎ→入湯→体を拭く→脱衣室移動→
全身を拭く→着衣→髪を乾かす→汚れた衣服の片付け→移動

これは、健常者の一般的入浴行為の手順ですが沙羅を利用されている痴呆の方は「お風呂に入いりましょう」と言う言葉だけでは、なかなか入浴の行為動作に移っていただけません。そこで、「お風呂に入りましょう」という言葉の理解がされているのか、お風呂に入るためにはどうしたらよいかわかるか、お風呂の場所は知っているか等とひとつひとつの行為動作を一人一人分解し分析してみました。そして、介助者がどのような介助をすればよいのかを見出し、実践して見ることとしました。

 その結果、介助者に求められる介助力には

○ 声かけだけで行為動作が完結する方
  行為動作手順の中のどの部分での声かけがもっとも有効であるのかの見極め
○ 声かけと失行部分への介助を必要とする方
  行為動作手順の中の失行部分の程度と声かけのタイミングと内容
○ 行為動作全般の介助を必要とする方
  声かけのタイミングと介助のスピード、正確性

 が必要であるとわかり、また、声かけがその後の介助を左右することも再認いたしました。

 痴呆高齢者は、行為の完結が見られると、あたかも自分自身何の手助けもなく行為することができたと思い「私は何でもできる」といい、ホットするようです。痴呆高齢者の日常生活は、つまづきが多く、困った環境であるのですが、行為動作が何とはなしにできていく環境を介助者が作り上げれば、痴呆高齢者にとっては居心地のよい空間になることと思います。
 そのためにも、ケアの中で障害のありかを明確にし、そのありかにケアの手を差し延べ、行為が完結できる状況を生み出すことが、痴呆ケアのひとつの方法ではないかと考えます。口演では、行為動作の分解、分析のひとつの方法を提案したいと考えています。