第5回日本痴呆ケア学会大会 

心に届く声かけ
児玉 彰
(有)イトーファーマシー  デイハウス沙羅

「デイハウス沙羅」は、重度の痴呆症状をもった方を対象としているデイサービスである。日々、行動分析に取り組みながらケアを行っている。
今回は、対象者に向き合った時、どのような声かけを行えば、対象者の心に届くのかを考える。
私たちは、声かけを対象者の平穏な状態の継続、不穏を和らげる方法ととらえているが、「心に添った風の中で」を実践する重要な手段である。このスローガンは私たちの基本理念でもある心に届く声かけを行うには、介護者に何が求められるかを探った。

 S氏 48歳 男性  
 3年前交通事故にて側頭葉損傷、左脳脳挫傷、右脳くも膜下出血。7ヵ月後より意識レベル改善。
 高次脳機能障害と短期記憶障害、見当識障害等痴呆症状がある。

当初、S氏はスタッフの声かけで、会話が成立しても理解されていない時、全く相手にされない時、逆に嫌悪感を顕著に出す時のあることがわかった。一生懸命だけでは成り立たない何かが必要であることを、S氏とのやりとりの中で気づかされた。
 そこで、S氏を少し離れて観察してみることにした。そのことで、対象者を取り巻く様子を理解でき、「心に届く」声かけに繋げられると考えたからである。また、

1)対象者の情報を得ること。 対象者の生活歴や職歴、性格、その日の体調(バイタルや服薬内容等を含む)と当日の様子などを介護者が知ること。これは基本的かつ重要な事柄である。
2)対象者と介護者をとりまく「環境」に注意する。 音(喧騒・静寂)、場所(デイルーム・その他)、時間など、声かけを行う時、対象者にとってどんな環境なのかを理解する必要がある。
3)これらの情報を、どのようなケア、声かけに結びつけるかが、
介護者に求められる「技量」である。
具体的には、意図的につくりだす雰囲気、声かけを行う介護者の年齢、性別、声の大小や高低、言語と非言語が技量の中核である。

 この3点を利用者は求めているのではないだろうかと考え意識して声かけを行った。

その結果、現在のS氏は、週の大半をデイで穏やかに過ごしていただけるようになっている。
 
日々、何気なく行われる「声かけ」は、痴呆症状をもつ人にとっては、介護者を受け入れる第一歩である。
 この事例で、「心に届く声かけ」を意識することで、我々介護者に居心地の良い場所があるように、対象者にも同じことが言えると考えられることを学んだ。口演では、「心に届く声かけ」のひとつの方向性をを明らかにしていく。