第6回日本認知症ケア学会大会 


言葉から重度認知症者の想いをさぐる

伊藤 美知


ほとんどの利用者は、健常であった時に、言葉を使ってコミュニケーションをとっていた。しかし、認知症を患い、使いこなしていた言葉が少なくなり、コミュニケーションが次第に取れなくなると、自身の想いを相手に伝えることが難しくなる。今回は、重度認知症者の言葉から、重度認知症者の想いを受け止めるすべをさぐる。

Aさんは、1日のほとんどの時間、幻覚の中ですごしている。幻聴に反応し、「コラッ」「アホ」と言ったり、意味不明の大声を出したりしている。また、床や、空中のものをつまんだり、見えない相手に語りかけたりと、幻視もある。利用当初は、おぼつかない足取りで、歩き回ってもいた。ようやく最近になり、ボーッとしている時間があったり、ウトウトと午睡したり、スタッフの顔を見つめ、話し掛けたりできるようになった。ある日、見えない相手を威嚇するAさんに、合槌を打つように、「えらいなあ」(つらいなあの意)と言った私の言葉を受け、Aさんは、「死にたいわ」と搾り出すように言った。
Aさんは、イライラしたり、意味不明の大声を出す時、生理的欲求時であることが多い。しかし、今回のAさんの言葉のように、重度認知症者の言葉の中には、時として、その本人の気持ちや想いをストレートに言い切るものがある。そして、言葉がたくさん残っていること、また、言葉を選び出すすべを、認知症という病のために難しくなっていることが感じられる。
 この残された言葉をとおして、重度認知症者の想いをさぐるには
1. 言葉を伝える
2. 言葉を書き留める
3. 言葉として聞き取れたときの状況を考える
4. 言葉の意図するところをさぐる
5. 言葉を紡ぐ
ことが大切であろうと考えた。また、
6. 受け手となる介護者には、常に、向き合う姿勢が求められる
7. 潜在的にもっている能力を知り、介護者の重度認知症者に対する一方的な思い込みを払拭することが求められる
8. 介助者の言葉で、重度認知症者の新たに湧き上がる感情があることを知る
9. 生活歴や生育歴を知る
10. 現在の環境を知る
など全てを含めて推察することが、重度認知症者の言葉から想いをうけとめる一つのすべではないかと考えた。

 重度認知症者の言葉は、ともすれば、介護者にとっては、単なる幻覚に反応した言葉としてしか受け取られかねない。しかし、Aさんと向き合うことで、Aさんが途切れ途切れの記憶の中で「死にたい」と思い続け、つらい気持ちを素直に言葉として表せる力が残されていたことに気づき、驚かされた。我々、重度認知症者をケアする者は、常に、重度認知症者の言葉を受け止め、想いに近づくことが大切ではないだろうか。