第6回日本認知症ケア学会大会

個別対応のカレンダー作りから見えてきたもの
市川清美


 弊社のデイサービスでは、認知症であることを踏まえた様々なアクティビティを考慮しながら行っている。今回は、毎月の恒例となっている翌月のカレンダー作りを取り上げる。従来は集団活動に近い形を取っていたが、今年2月より個別に対応し、制作中の様子を記録した。今回はその中でも3事例を取り上げ、今年2月から8月までの制作を通して見えてきたものを報告する。

1例目:Aさん
脳梗塞による視神経障害があり、普段から「目が見えない」という意識が非常に強く、最初に画用紙を選ぶ時から「見えない」「わからない」という言葉が必ず聞かれる。しかし、スタッフが1対1でそばにつき、声かけを行うと好きな色を選び、その後も最後まで制作に取り組む。また、個別対応することにより、本人の悩みや想いにじっくりと耳を傾ける時間ができた。本人の「上手に作りたい」という意欲を引き出すことができ、また自分を見てくれているという安心感から、スタッフとの信頼関係も深まった。
2例目:Bさん
これまで、カレンダー作りに対してはあまり興味を示さず「めんどくさい」「あんたがしておいて」というような発言が多く見られ、スタッフ任せにしていた。しかし個別対応により、徐々に自分で考えながら集中して制作するようになり、作品にも個性が出てきて完成までの時間も短くなった。5月のカレンダー作りにおいては、かぶとの折り紙を行った際、折り方を思い出して急に自分から色紙を手に取り、意欲的に折り始めた。さらに他の利用者に折り方を教えたり、作品を褒めるといった余裕も生まれ、その後カレンダー作りに意欲が出始めた。
3例目:Cさん
カレンダー作りをすることを伝えると、毎回「幼稚園に行ってないから」などと言い、一旦は拒否的な発言がある。これまでは、他の利用者に見られるのが嫌だったためか、制作に取りかかろうとしなかった。しかし個別対応になってからは無心で制作するようになり、集中するため疲れて「指がつる」という言葉も必ず聞かれるようになった。制作中にスタッフに話を聞いてほしいという気持ちがあり、個別対応に変えてからはその間スタッフを独占できるため、話をするのも制作するのも夢中になる。デイ利用中は緊張からか何杯もお茶を飲むが、その間は一度もお茶を飲むことなく過ごす。常に他の利用者と一緒にいるのではなく、スタッフと1対1で過ごす時間を作ったことにより、全体的にバランスの取れた過ごし方ができるようになった。

全体的な変化として、個別対応を行ってからは「制作する」という意欲が出てくるようになり、その間はスタッフが自分の話を聞いてくれる、見ていてくれるという安心感によって落ち着いて集中できるようになった。利用者は個々に「話を聞いてほしい」「認めてほしい」という想いを持っており、個別に関わることによって生まれる言葉がたくさんある。今後もカレンダー作りをはじめ、様々な場面での利用者の様子を考察し、利用者の支援に役立てていきたい。