認知症者の欲求をケアに繋げる
マズローの欲求段階説に学ぶ


伊藤 美知
(有)イトーファーマシー デイハウス沙羅

目的
 私は、「人は、認知症を患っても欲求を満たすために様々な努力をしている」と考えている。日々、認知症者に接していると、記憶を刻むために、メモを残したり、繰り返し聞きなおしたりしていることも、認知症者の欲求への努力であるのではないかと感じることがあるからである。
「マズローの欲求段階説」は「人間の欲求は5段階のピラミッドのようになっていて底辺から始まって、1段階目の欲求が満たされると1段階上の欲求を志す」という有名な説である。その1段階目の生理的欲求と2段階目の安全の欲求は人間が生きるうえでの根源的な欲求である。
この1段階目の生理的欲求、2段階目の安全の欲求を認知症により満たすことができなくなった時、「生理的欲求」や「安全の欲求」を支える第1人者となりえるひとりに介護者がいるのではないかと考える。そのためには、利用者の満たされない欲求がどの部分であるのかをも見極めた介護が必要となってくる。そして、その欲求を満たすことができれば次の段階の欲求に対する支援のあり方も見えてくるのではないかと考え考察を行った。

仮説

 まず、認知症を患った方の欲求を探り、満たし、新たなる欲求を見出していくには、いくつかの介護者の工夫がいる。
欲求を探り、満たし、新たなる欲求を見出すために必要とされる工夫には、

・ 認知症者との信頼関係の構築
・ 生活歴からの情報
・ 介護者のかかわり
・ 認知症者の現在
・ 認知症者の言葉
・ 介護者の意識
・ 環境の設定

などが必要であると仮説をたてた。

考察

 1段階目の生理的欲求、2段階目の安全の欲求を確実に満たす介護を提供することで、認知症者が潜在的に持っている能力を引き出し、新たなる欲求を見出してゆくことに繋がるのではないかと考えた。そして、良質な介護者とのかかわりの中では、より豊かな欲求を満たしてゆくことも可能なのではないかと考えた。
 新たなる欲求を引き出す主体は、あくまで認知症者自身ではあるが、認知症者を取り巻く、介護者の存在は大きくその欲求を変えるであろうと推察した。
 認知症者自身が介護されるのではなく、介護を活用することが、これからの認知症介護を考える上で大切なことではないかと考えると、介護者の認知症者に対する姿勢を多方面からの視点に立って考える力を介護者に求めると考えられる。
 口演では、「マズローの欲求段階説」から、「人の欲求」について考え、認知症ケアに繋げるひとつの考えを提起したい。